サルから進化した人類の食性を追ってみる

neem

2015年03月30日 07:08

言うまでもなく人類はサルから進化してきました。

「チンパンジーの遺伝子は99%人間と同じ、
だからヴィーガンでも健康に生きられるだろう」

このナチュラルハイジーンやローフード派の意見を検証するには、

1 チンパンジーの食性はどんなものか。
2 チンパンジーと人間が分岐した時代にヒトは何を食べていたのか。

この2つを見ていけば良いのだと思います。

まず食性はどうでしょうか?
雑食性で、果実をよく食べます。その他、種子、花、葉、樹皮、蜂蜜、昆虫、
小型から中型哺乳類などを食べているようです。

基本的に、果実食、植物食ですが、昆虫(動物性タンパク質です)や哺乳類を食べています。
割合は少しだとしても、集団で協力して小型のサルを狩猟するなど、肉食をしています。

特にチンパンジーは、オラウータンやゴリラと比べ積極的に狩猟をする種です。
アカコロブスという小型のサルが主な狩猟対象ですが、
小型の猪を食べることもあるようですし、共食いもします。



続いて歴史を見ていきます。



約3000万年程前、テナガザルのような尾のないサル、ヒト上科が誕生しました。
それからオラウータン、ゴリラ、チンパンジーと分岐して、
チンパンジーからヒト亜属(=人類)が分岐したのは700〜500万年程前だと
いうのが考古学的な通説です 。

それから300万年程前にアフリカで誕生したアウストラロピテクスまで、
主に果実、葉、ナッツ類、昆虫、小動物、動物の死骸を食べていたようです。

大きな歯と強靭な顎、大きな腸管を持っており、
食性の大半は「植物性」だったと言われています。

チンパンジーの食性とよく似ています。
ただやはり植物性のみで生きてはおらず、昆虫、小動物、死骸を食べていたようです。



まずこの時点でヒトもチンパンジーもヴィーガンで生きていなかった事が確認できます。
植物性主体で生きられそうでも、多少の動物性は必要だと思う方が自然です。



260万年前、アウストラロピテクス・ガルヒは石器を使い始めました。
それにより動物の死骸を解体し、骨髄や脳を摂取し、
より豊富な栄養とエネルギーを摂取することに成功します。
草原から水辺に移り住み、水棲生物も食べ始めました。

肉食化に伴い、大量の植物を消化するためにあった大きな腸管は小さくなり、
動物性脂質とタンパク質の摂取により脳の容量が増えていきました。
(これを「脳と腸のトレードオフ」と言います)

脳が増大化した人間は、狩猟のための武器を発明し、
食性はより動物性寄りに変化していきました。

アウストラロピテクスの脳の容量は400〜500ccで
身長は120〜140cmほどでしたが、
190万〜100万年前のホモ・エレクトスになると
脳の容量は1000ccを超え、
身長も160〜180cmほどに大きくなりました。

50万年〜20万年前のネアンデルタール人や
クロマニヨン人になると脳の容量は1500cc前後にまで
発達していきます。

かつて植物性主体で生きていた猿人は、
原人のホモ・エレクトスに進化した時点で
「総摂取カロリーの65%は動物性」に変化していた様です。



この進化の過程をまとめると、
かつての草食動物的な大きな腸管を失い、
代わりに脳を手に入れて動物性の食料を獲得し、
現代の人間のように進化してきたと云う事になります。



僕は、この進化の過程により肉食中心がヒトに合う食事だと
決めつけるつもりは全くありません。
(繰り返しますが、この連載は肉をたくさん食え!と言いたい訳ではないですから…
 あまりにそいうったコメントが多いので注釈しておきます。)

ずいぶん昔の時代ですし、健康状態がどうだったかも分かりません。
気候や環境も厳しく、生きながらえるのも大変で、
食べられる物はありとあらゆるものを食べていたと思います。



ただ一連の考古学的な検証を追っていくと、
少なくとも「ヴィーガンで生きていた時代は無い」という事、
そして「大きな腸管を失い、肉食動物寄りに進化している」事が
分かると思います。
そして数百万年という膨大な時間をかけて進化しています。



腸の長さは、草食動物、肉食動物で大きく違います。



肉食動物であるライオンやネコは体長の約4倍ほどの腸の長さを持ちます。
肉食系の雑食である犬は体長の5〜7倍です。
草食動物である 牛になると体長の20倍、羊は25倍の長さになります。

人間はどうでしょうか?
体長の7〜9倍程度の腸の長さです。
やや肉食よりの雑食性であると読み取るのが妥当な見解かと思います。

(ちなみに菜食で通説の「日本人の腸は欧米人よりも長い」には
 根拠がなく、人種で大きな差は無いようです。)



草食動物はセルロース(食物繊維)を腸内細菌の力で分解し、
短鎖脂肪酸を産生しエネルギーとして利用しています。
だからこそ草だけを食べて体を維持する事が出来ています。

人間にも人によっては(持っている腸内細菌によっては)、
本来消化出来ないセルロースからエネルギーを作ることに
成功している人もいる様です。
植物性主体の食事でも元気な人は、草食動物的な
腸内細菌を持っていると思います。

その代表的な人が青汁1杯で生きている森美智代さんだと思います。



僕はヴィーガンで生きるのは難しいと書いてきましたが、
不可能だとは思っていません。

ただし森さんのようになろうと頑張っている生菜食派の人はたくさん居ても、
実際に成功している人はほぼ居ないのではないでしょうか?



限りある資源の為、地球環境の為にヴィーガンにチャレンジする
精神は素晴らしいと思いますが、
まず現段階の人間の体の仕組みや栄養学を理解した上で
チャレンジして欲しいと思ってます。



そうでないと、体を壊したり、夫婦喧嘩を起こしたり、
間違った情報を振りまいて他人の健康まで奪ってしまったり…
社会の中で孤立するだけだと思うんです。

関連記事